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“Deep Sea Portfolio” -4

〜ニュースに取上げられない、独自の生態系を貫く株式銘柄への集中投資〜

*本内容は株式会社日本取引所グループが開催している「日本取引所グループ ニュース分析チャレンジ」に関したブログです。

2021年6月9日

”Deep Sea Portfolio”のパフォーマンス

"Deep Sea Portfolio"のパフォーマンス結果

”Deep Sea Portfolio”のパフォーマンスを見てみます。

株式会社日本取引所グループのコンペでの評価方法は次の通りです:

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・モデルより出力されたポートフォリオについて、5月10日(月)の始値で購入し、5月14日(金)の終値で売却とした際の利益(ラウンド1)

・モデルより出力されたポートフォリオについて、5月17日(月)の始値で購入し、5月21日(金)の終値で 売却とした際の利益(ラウンド2)

・モデルより出力されたポートフォリオについて、5月24日(月)の始値で購入し、5月28日(金)の終値で 売却とした際の利益(ラウンド3)

・モデルより出力されたポートフォリオについて、5月31日(月)の始値で購入し、6月4日(金)の終値で 売却とした際の利益(ラウンド4)


すでにラウンドは終了しており、パフォーマンスの結果が出ています:

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日本証券取引所グループのコンペは週の終値で売却して翌週に買いなおしという取引ですが、ここでは日々同様の取引を行なったケースで算出してあります。

NewsPFは"Deep Sea Portfolio"に対してニュースで取り上げられた銘柄で、universeは上場全銘柄となっています。

毎週銘柄が異なるのは、“Deep Sea Portfolio” -3で設計した要件で銘柄順位が異なることによるものです。

Round1

"Deep Sea Portfolio"、ニュースで取り上げられている銘柄、全ユニバースともマイナスリターンです。その中で、"Deep Sea Portfolio"はニュースで取り上げられている銘柄には買っていますが、全ユニバースには負けました。

Round2

ニュースで取り上げられている銘柄が若干プラスのパフォーマンスでした。"Deep Sea Portfolio"は全ユニバースにやや買っているレベル感でした。

Round3

ニュースで取り上げられている銘柄がプラスのパフォーマンスでした。"Deep Sea Portfolio"は全ユニバースには買っていますが、引き続きマイナスでした。

Round4

"Deep Sea Portfolio"はニュースで取り上げられている銘柄に対しても、全ユニバースに対しても買っていますが、最後までプラスリターンを出すことはありませんでした。

"Deep Sea Portfolio"のコンペでの総括

当初シミュレーションしたパフォーマンスとは異なり、やや厳しい結果に終わりました。株価は数多の要因が複数かつ予測できないタイミングで起こることにより決まり、それを予測するのは困難を極めます。ただし1つ言えるのは、ニュースに取り上げられないからといって、ニュースに取り上げられている銘柄やユニバース全体より見落としするパフォーマンスではなかったということ、また、Roundを重ねることによりパフォーマンスは改善傾向にあり、"Deep Sea Portfolio"にとってこのコンペの時期の株価がうまく適さなかったということかと思います。

5−6月は企業決算、株主総会や投資家説明会など多くの企業イベントがあり、それに関連したニュースが多く出る時期でもあります。素直に考えれば、そのニュースを踏まえてポートフォリオを作成するということなのでしょうが、あえて逆張りでニュースに取り上げられない企業でポートフォリオのパフォーマンスを見るという実験をしてみました。当初思惑通り、ニュースで取り上げられない≒株価も冴えない、と直感的には連想してしまいがちですが、そんなことはないということは、少なくとも確認できたかと思います。

ご覧いただきありがとうございました。



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“Deep Sea Portfolio” -3

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2021年4月28日

”Deep Sea Portfolio”のパフォーマンス

業績好調ではあるが、ニュースに取り上げられた企業とそうでない企業

深海の生命体のようなニュースに取り上げられなかったものの、高い「成長率」・「収益性」・「効率性」を保つ、”Deep Sea Portfolio”ともいうべき上場企業5社を改めてみてみましょう:

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比較対象としたのは日本証券取引所グループのニュース分析チャレンジで提供されている全上場企業3,711社をベンチマークとし、ニュースに取り上げられた「成長率」・「収益性」・「効率性」の高い5社、いわばDeep Sea Portfolioと真逆の、光を浴びている企業5社と比較しました:

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ニュースに取り上げられなかった企業の方がニュースに取り上げられた企業の株価を上回る

Deep Sea Portfolioは全上場企業をアウトパフォームし、ニュースに取り上げられた5社も上回るパフォーマンスをあげています:

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基準日:2020年7月1日
横軸:パフォーマンス、%
オレンジ実線:Deep Sea Portfolio
青点線:ニュースに取上げられた「成長率」・「収益性」・「効率性」の高い上場企業5社
黒実線:全上場企業
本チャレンジでは1週間毎に売買を繰り返すSwing tradeが条件となっていますが、このチャートはDeep Sea Portfolioの特徴を加味してBuy & Holdにしてあります

ではなぜDeep Sea Portfolioはアウトパフォームしているのでしょうか。仮説としては、「ニュースは株価にとって”ノイズ」でも書きましたとおり、ニュースで取り上げられていない企業こそがニュース固有のインセンティブ構造によってミスリードされることなく純粋に評価されている企業で、ニュースでセンセーショナルに扱われないがゆえにfairな株価となっているという仮説です。

深海に生きる魚族のやうに、自らが燃えなければ 何處にも光はない

〜明石海人『白猫』

この短歌は昭和初期の歌人である明石海人によるものです。ALG社の「12の光の格言」によると、明石海人はハンセン病を患いながらも短歌を発表し「慟哭の歌人」と呼ばれた歌人です。36歳の時には失明し、病魔が容赦なく海人の肉体を蝕んでいく中、詩歌の研究 短歌を詠むことに励んでいきました。この詩は、劣悪な状況でも自ら光を放とうとしたその姿勢の根幹には、この格言にあるように光の無い世界においても自らが情熱を持って生きることで自分が光輝くことができるという信念によるものとあります。

ニュースに取り上げられないことは「劣悪な状況」ではありませんが、ニュースによく取り上げられる企業と比べると目立たない、地味な聞いたことがない企業呼ばわれされることになります。しかし、Deep Sea Portfolioは、まさにこの詩にあるようにニュースという光にはあたっていないものの、自らの情熱(事業、企業理念、カルチャー)を持ち、自ら光り輝くと言えるのではないでしょうか。

伝統的な個別銘柄分析をすれば、それぞれコロナや半導体などの特需要因のものもあるでしょう。ただし、そのような特需による株価上昇はニュースに取り上げられている銘柄でも見受けられます。テクニカルなものよりも、Deep Seaの独自の生態をもち自ら光る企業、自らの情熱により自ら光り、ニュースという光が当たらないが故により企業としての本質的なところがこのパフォーマンスの根幹にあるような気がしてなりません。

引き続き、5月から始まる日本取引所グループ ニュース分析チャレンジでDeep Sea Portfolioがどのように推移していくか更なる考察を加えていきたいと思いますが、次は"Deep Sea Portfolio"を組成するにあたってのエンジニアリング面を説明します。

→ “Deep Sea Portfolio” - エンジニアリング編







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2021年4月27日

2020年ニュースで取り上げられなかった、独自の生態系を貫く上場企業とは

上場企業3,711社中、257社はニュースとして取り上げられず

日本には3,711の上場企業があります。上場には一定の基準が設けられており、それを超えて上場できた企業はいわば日本を代表する企業の中の企業といっても過言ではなく、そんな上場企業でニュースで取り上げられない企業があるのでしょうか?!実はあるのです。

株式会社日本取引所グループが開催している「日本取引所グループ ニュース分析チャレンジ」で公開されているJ-Quants APIによると、2020年の1年間に1度もニュースで取り上げられなかった企業は257社あります。

なおこのチャレンジで提供されているニュースデータは日経電子版見出しテキストデータであり、全国紙、地方紙、電子版、経済紙や業界紙といった森羅万象のニュースをデータとはしていません。ただし、日本で企業や経済に関連する情報媒体の代表といえば日本経済新聞であり、この観点で相応程度カバーしているという前提です。
これら企業がニュースにならないこととして考えられるのは、「規模が小さい」、「時流にそったニュースがない」、「B to Bなので読者がイメージしにくい」等が想定されますが、果たしてそうでしょうか。

ニュースにならないのは規模が小さいから?ニュース性がないから?

日本証券取引所グループのニュース分析チャレンジで対象となっている企業は時価総額200億円以上の企業です。この範囲において、相対的に規模が小さい企業でニュースに取り上げられているところは次の企業です:

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T&S inc.とオンコセラピー・サイエンス
もっともニュース頻度が高いのはT&S inc.の36件で、2020年7月に上場したのでこの関係のニュースが多いです。次に多いのがOnco Therapy Science, Inc.の18件です。ここは、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するペプチドワクチン研究開発着手のお知らせ」や年末恒例のノーベル医学賞関連銘柄でニュースになっています:

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フジコーポレーション
一方、同じような規模の企業でもニュースに取り上げらていないところもあります。例えばフジ・コーポレーションです。時価総額は4月15日終値で約300億円、売上は136億円と、ニュースに取り上げられているT&S inc. やOnco Therapy Science inc.よりも時価総額も売上も大きい企業です。タイヤの専売店「タイヤ&ホイール館フジ」を東北、関東中心に直営展開している会社です。直近の業績を見てみると前年同期比で売上・利益とも約20%伸びています:

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業績好調の背景には、強い寒波や大雪の影響でスタッドレスタイヤの販売が好調だったようです:


2020年年末より大雪や寒波のニュースは連日報道されており、その関連でニュースとなってもおかしくない内容です。

いずれにせよ、これら257社はニュースに取り上げられることがなかった上場企業です。これら企業の株式は果たして、ニュースによってミスリードされることなく純粋に評価され、ニュースでセンセーショナルに扱われないがゆえにボラタリティの低い安定した株価推移が見込まれる可能性があるのか、日本取引所グループが開催しているチャレンジの中で、その仮説を検証していきます。

Deep Sea(深海)に生息する、自ら光を放つ5社

日本証券取引所グループのチャレンジは次のような内容であり、上場企業の中からいくつか銘柄を選んでポートフォリオを組成します:

>>
現金100万円を原資として、1週間の収益(キャピタルゲイン)がより高くなるポートフォリオ(購入する銘柄等の組み合わせ)の予測に取り組んでいただきます。本コンペティションにおける収益とは、ある1週間のうち、初日(月曜日)の始値で購入し、最終日(金曜日)の終値で売却する時の収支を指します(詳細は「予測対象」を参照)。 ポートフォリオの予測に当たって、銘柄情報・株価情報・ファンダメンタル情報・日経電子版見出しテキストデータ・適時開示データ等の様々なデータを利用することができます。 本コンペティションでは、この1週間における収益の競争を、2021年5月10日(月)〜2021年6月4 日(金)の4週間(4ラウンド)の期間でそれぞれ実施し、その4ラウンド全ての総合的な収益を競っていただきます。なお、本コンペティションでは各銘柄は1株単位で購入可能とします。
<<

ニュースで取り上げられなかった257社を1株ずつ投資したポートフォリオでは100万円の上限を超えてしまうので、銘柄を厳選する必要があります。かつ時価総額200億円以上の企業が対象です。
今回は、非常にシンプルな「成長率」・「収益性」・「効率性」の3つの観点でニュースに取り上げられなかった257社をランキング化しました。そのランキング上位5社は次の企業です:

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この基準で選ばれたのは、2020年にニュースに取り上げられることはなかったが、その中でも高い「成長率」・「収益性」・「効率性」をもつ企業です。例えるならば、ニュースという光の当たらない深海(Deep sea)に生息する、進化し(成長率)、強さがあり(収益性)、賢い(効率性)をもつ独自の生態系を貫く生命体です。深海の特徴は日の当たらなさ、温度の低さ、圧力の高さにあり、エサが少なく太陽光の届かない深海には生物がいないと考えられていた時代もありましたが、現在は数多くの生物が確認されており、まだ見つかっていない生物も多いと考えられています。また、深海の環境の中で効率的にエサを取るために、自ら光を放つなど独自の進化を遂げています。

対局にある浅海です。浅海は日の光があたり餌が豊富にありますがその分その餌を巡って競争は熾烈です。常日頃ニュースという日の光に当たっている企業は知名度があり新商品を出した時のPR力も抜群です。一方、ニュースは常に正しい内容とは限らず、メディアの考えがバイアスとして入っており正しく日が当たらないこともあり、また常にポジティブなニュースばかりではなく有名大企業になるほどネガティブなニュースが出た時のダメージは大きくなります。

一方ニュースに取り上げられない企業はニュースに踊らされることなく、深海の生命体のように自ら光を発しながら独自の進化を遂げているのではないでしょうか。これら深海の生命体のようなニュースに取り上げられなかったものの、高い「成長率」・「収益性」・「効率性」を保つ、”Deep Sea Portfolio”ともいうべき5社のパフォーマンスを見てみます。


→ ”Deep Sea Portfolio”のパフォーマンス








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2021年4月26日

ニュースは株価にとって”ノイズ”

ニュースとはなんだろうか?

株価はさまざまな要因で変動します。極東証券によると、その要因には次のようなものがあります:
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全ての企業や全ての国に関する情報を取得するのは現実的ではなく、ニュースが1つの情報ソースとしての役割を果たしています。では、ニュースとはそもそも何なのでしょうか。

学校などで新聞を教材として活用する活動を進めているNIEはジャーナリズムを「新聞、テレビ、ラジオ、雑誌のほか、最近はインターネットが加わり、一人ひとりの記者やリポーターが現代社会の息吹を伝え、身近な社会に潜んだ問題点や課題を掘り起こしています(下線筆者)」と説明しています。つまり、ニュースには問題や課題を知らせる役割があるのですが、どのような観点でニュースとすべき内容を選択しているか、さらに新聞社のビジネスモデルから考えてみます。

次の表は日本新聞協会が調べた新聞社の売上とその内訳です。販売収入と広告収入で70%超を占めています。
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つまり、ニュースは読者が問題や課題として関心を持ちそうな内容を分かりやすく伝え、また広告主に対し一定配慮をしつつ書かれています。一方、語弊を恐れず単刀直入にいうと、「身近な社会に潜んだ問題点や課題を掘り起こす」というのは、その時その時で読者を引きつければそれで良くてその後は知ったことではない、オンライン記事であればページビューなどの新聞社がKPIとしている指標を高めることができれば広告料を高く取れるのでKPIにつながる記事にしたい、または大口の広告主には好意的な記事を書いたり露出を多くしてより広告料につながる記事を書きたい、とも考えられます。また、SNS等の発達により、短い文章で分かりやすくかつ出来るだけ早く伝えることで広告収入につながるページビューをあげるインセンティブが働き、企業ニュースに関しては分かりやすさを重視して、ある一面にのみフォーカスを当てた記事になり得ます。

ニュースによるミスリードの例

企業ニュースはきちんと実態を表しているか見てみましょう。例えば次は日本経済新聞電子版2020年8月7日の生命保険会社の決算に関する記事です:

日本生命の4~6月期、1割減益 株式配当が減少

日本生命保険が7日発表した2020年4~6月期決算は、グループの本業のもうけを示す基礎利益が前年同期比13%減の1225億円だった。株式の配当が減少した。傘下の豪MLCの不調も響き第1四半期として2年連続の減益となった。

売上高に相当する保険料等収入は14%減の1兆2288億円だった。新規契約に絞った新契約年換算保険料でみると国内で63%減の393億円にとどまった。新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛で保険の販売が減った。

同日、明治安田生命保険が発表した4~6月期決算は、グループの保険料等収入が12%減、同基礎利益が6%減だった。住友生命保険も減収減益となった。第一生命ホールディングス(HD)は12日に4~6月期決算を発表する。」

要は、生命保険会社はコロナの影響を受けて業績下がっていますよ、という記事です。果たして本当にそうでしょうか。日本生命の2020年上半期の決算・経営戦略説明会資料によると、生命保険会社にとって重要指標の1つである保有契約は高い継続率によりほぼ変わらず、というコロナ禍の中、相当の企業努力をして結果を出していることがわかります。
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生命保険事業はとても長い期間の中で収益をあげるビジネスモデルであり、四半期や1年といった短い期間の売上増減で評価するのはミスリードです。このような保有契約や、embeded valueと言われる生命保険会社の企業価値の指標や新規に契約した保険契約に係るembeded valueである新契約価値といった長い期間を加味した指標で評価する必要があります。しかし、SNSやネット記事との競争の中で、「日本生命 保有契約が堅調に推移」よりは、「生命保険会社がコロナで売上げ減少して大変です!」と書いた方がわかりやすく、危機感を煽る内容なので読者の関心を呼びやすくページビューを稼げます。

また、朝日新聞電子版2020年10月28日に「ソニー、業績予想を上方修正 「鬼滅の刃」も貢献」というヘッドラインのニュースがあります。
ソニーの収益はゲーム、カメラや金融が大きな比率を占めており、その3つで売上約2兆円です。鬼滅の刃も貢献はしているのでしょうが規模は10~100億円ではないかと想像され、ソニーの主力事業に比べるとその貢献度合いは比較的小さなものとなります。むしろ、ゲームの売上増加が大きく巣ごもり需要をうまく汲み取り、他ビジネスはコロナ禍の影響で減収もうまく補完しているというのが正しい評価ではないでしょうか。これも、「ソニーのプレステ堅調に推移」というヘッドラインより、2020年社会ブームになった鬼滅の刃のキーワードを出した方がキャッチーでページビュー稼ぎやすいのでしょう。
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投資家はニュースに惑わされていないか?!

では、様々な要因で変動する株価にとってニュースとはどのようなものなのでしょうか。東京証券取引所一部の取引では海外投資家(約70%)と
デイトレーダーを中心とする個人投資家(約20%)で90%を占め、投資の専門家が大多数を占めています。投資の専門家が売買をするにあたって、企業が開示する情報等を分析し投資判断をしていきますが、日本の上場企業は約3,800社あり、その全て情報を常に把握するのは難しく、効率的に情報を得るためにニュースを参考にしているでしょう。原則として、売買の判断の際に企業情報の分析や経営者インタビューがその主要な判断材料となっているはずですが、ニュースのミスリードの例にあったように「A社コロナ禍で減収減益、失速!」といったその企業の本質を反映していないけど、ニュースのヘッドライン的にはセンセーショナルな内容をみたときに頭では会社情報で合理的に判断していると思っていても、心理的には多少なりとも何らかのバイアスが残り、判断に影響を受けたりはしていないでしょうか。

事件や不祥事といったニュースを手がかりに短期的取引をする戦略もありますが、投資は原則として長期的視点で行うものです。このような長期的視点での取引をするにあたり、「ニュースは株価にとってノイズとなりうる」を仮説とします。「身近な社会に潜んだ問題点や課題」をキャッチーにまたはセンセーショナルに報じてページビューや読者が増やして購読料や広告収入が入ればよいニュースと企業活動や株価とはインセンティブ構造が異なり、株価にとってニュースはノイズになりうるのではないかという考え方です。

つまり、ニュースで取り上げられていない企業こそがニュース固有のインセンティブ構造によってミスリードされることなく純粋に評価されている企業で、ニュースでセンセーショナルに扱われないがゆえにfairな株価推移が見込まれるのではないか、と考えています。

日本には3,711の上場企業があります。上場には一定の基準が設けられており、それを超えて上場できた企業はいわば日本を代表する企業の中の企業といっても過言ではなく、そんな上場企業でニュースで取り上げられない企業があるのでしょうか?!実はあるのです。

→ 2020年ニュースで取り上げられなかった、独自の生態系を貫く上場企業とは





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