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“Deep Sea Portfolio” -1

〜ニュースに取上げられない、独自の生態系を貫く株式銘柄への集中投資〜

*本内容は株式会社日本取引所グループが開催している「日本取引所グループ ニュース分析チャレンジ」に関したブログです。

2021年4月26日

ニュースは株価にとって”ノイズ”

ニュースとはなんだろうか?

株価はさまざまな要因で変動します。極東証券によると、その要因には次のようなものがあります:
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全ての企業や全ての国に関する情報を取得するのは現実的ではなく、ニュースが1つの情報ソースとしての役割を果たしています。では、ニュースとはそもそも何なのでしょうか。

学校などで新聞を教材として活用する活動を進めているNIEはジャーナリズムを「新聞、テレビ、ラジオ、雑誌のほか、最近はインターネットが加わり、一人ひとりの記者やリポーターが現代社会の息吹を伝え、身近な社会に潜んだ問題点や課題を掘り起こしています(下線筆者)」と説明しています。つまり、ニュースには問題や課題を知らせる役割があるのですが、どのような観点でニュースとすべき内容を選択しているか、さらに新聞社のビジネスモデルから考えてみます。

次の表は日本新聞協会が調べた新聞社の売上とその内訳です。販売収入と広告収入で70%超を占めています。
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つまり、ニュースは読者が問題や課題として関心を持ちそうな内容を分かりやすく伝え、また広告主に対し一定配慮をしつつ書かれています。一方、語弊を恐れず単刀直入にいうと、「身近な社会に潜んだ問題点や課題を掘り起こす」というのは、その時その時で読者を引きつければそれで良くてその後は知ったことではない、オンライン記事であればページビューなどの新聞社がKPIとしている指標を高めることができれば広告料を高く取れるのでKPIにつながる記事にしたい、または大口の広告主には好意的な記事を書いたり露出を多くしてより広告料につながる記事を書きたい、とも考えられます。また、SNS等の発達により、短い文章で分かりやすくかつ出来るだけ早く伝えることで広告収入につながるページビューをあげるインセンティブが働き、企業ニュースに関しては分かりやすさを重視して、ある一面にのみフォーカスを当てた記事になり得ます。

ニュースによるミスリードの例

企業ニュースはきちんと実態を表しているか見てみましょう。例えば次は日本経済新聞電子版2020年8月7日の生命保険会社の決算に関する記事です:

日本生命の4~6月期、1割減益 株式配当が減少

日本生命保険が7日発表した2020年4~6月期決算は、グループの本業のもうけを示す基礎利益が前年同期比13%減の1225億円だった。株式の配当が減少した。傘下の豪MLCの不調も響き第1四半期として2年連続の減益となった。

売上高に相当する保険料等収入は14%減の1兆2288億円だった。新規契約に絞った新契約年換算保険料でみると国内で63%減の393億円にとどまった。新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛で保険の販売が減った。

同日、明治安田生命保険が発表した4~6月期決算は、グループの保険料等収入が12%減、同基礎利益が6%減だった。住友生命保険も減収減益となった。第一生命ホールディングス(HD)は12日に4~6月期決算を発表する。」

要は、生命保険会社はコロナの影響を受けて業績下がっていますよ、という記事です。果たして本当にそうでしょうか。日本生命の2020年上半期の決算・経営戦略説明会資料によると、生命保険会社にとって重要指標の1つである保有契約は高い継続率によりほぼ変わらず、というコロナ禍の中、相当の企業努力をして結果を出していることがわかります。
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生命保険事業はとても長い期間の中で収益をあげるビジネスモデルであり、四半期や1年といった短い期間の売上増減で評価するのはミスリードです。このような保有契約や、embeded valueと言われる生命保険会社の企業価値の指標や新規に契約した保険契約に係るembeded valueである新契約価値といった長い期間を加味した指標で評価する必要があります。しかし、SNSやネット記事との競争の中で、「日本生命 保有契約が堅調に推移」よりは、「生命保険会社がコロナで売上げ減少して大変です!」と書いた方がわかりやすく、危機感を煽る内容なので読者の関心を呼びやすくページビューを稼げます。

また、朝日新聞電子版2020年10月28日に「ソニー、業績予想を上方修正 「鬼滅の刃」も貢献」というヘッドラインのニュースがあります。
ソニーの収益はゲーム、カメラや金融が大きな比率を占めており、その3つで売上約2兆円です。鬼滅の刃も貢献はしているのでしょうが規模は10~100億円ではないかと想像され、ソニーの主力事業に比べるとその貢献度合いは比較的小さなものとなります。むしろ、ゲームの売上増加が大きく巣ごもり需要をうまく汲み取り、他ビジネスはコロナ禍の影響で減収もうまく補完しているというのが正しい評価ではないでしょうか。これも、「ソニーのプレステ堅調に推移」というヘッドラインより、2020年社会ブームになった鬼滅の刃のキーワードを出した方がキャッチーでページビュー稼ぎやすいのでしょう。
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投資家はニュースに惑わされていないか?!

では、様々な要因で変動する株価にとってニュースとはどのようなものなのでしょうか。東京証券取引所一部の取引では海外投資家(約70%)と
デイトレーダーを中心とする個人投資家(約20%)で90%を占め、投資の専門家が大多数を占めています。投資の専門家が売買をするにあたって、企業が開示する情報等を分析し投資判断をしていきますが、日本の上場企業は約3,800社あり、その全て情報を常に把握するのは難しく、効率的に情報を得るためにニュースを参考にしているでしょう。原則として、売買の判断の際に企業情報の分析や経営者インタビューがその主要な判断材料となっているはずですが、ニュースのミスリードの例にあったように「A社コロナ禍で減収減益、失速!」といったその企業の本質を反映していないけど、ニュースのヘッドライン的にはセンセーショナルな内容をみたときに頭では会社情報で合理的に判断していると思っていても、心理的には多少なりとも何らかのバイアスが残り、判断に影響を受けたりはしていないでしょうか。

事件や不祥事といったニュースを手がかりに短期的取引をする戦略もありますが、投資は原則として長期的視点で行うものです。このような長期的視点での取引をするにあたり、「ニュースは株価にとってノイズとなりうる」を仮説とします。「身近な社会に潜んだ問題点や課題」をキャッチーにまたはセンセーショナルに報じてページビューや読者が増やして購読料や広告収入が入ればよいニュースと企業活動や株価とはインセンティブ構造が異なり、株価にとってニュースはノイズになりうるのではないかという考え方です。

つまり、ニュースで取り上げられていない企業こそがニュース固有のインセンティブ構造によってミスリードされることなく純粋に評価されている企業で、ニュースでセンセーショナルに扱われないがゆえにfairな株価推移が見込まれるのではないか、と考えています。

日本には3,711の上場企業があります。上場には一定の基準が設けられており、それを超えて上場できた企業はいわば日本を代表する企業の中の企業といっても過言ではなく、そんな上場企業でニュースで取り上げられない企業があるのでしょうか?!実はあるのです。

→ 2020年ニュースで取り上げられなかった、独自の生態系を貫く上場企業とは





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